大川(おおこ)の滝そして多目的トイレ
里で見られる滝としては一番大きな大川の滝、その落差は88mだ。
先日88歳になったばかりの義母を連れて屋久島一周の途中で立ち寄った。
その日は朝から南の風がふき南下する程に雨模様の天気だったが、大川の滝に着き車を降りた時にはちょうど雨はあがっていた。
駐車場から滝つぼ近くへと続く道は昨年の工事で大分広くなり、足元が不安な義母を支えながら並んで歩いても、他の人の邪魔にならずにすむ。
特に春休みの終盤だったからだろうか、わたしたち以外には3組程の観光客しかいなかった。
流れ落ちる真っ白な瀑布は末広がりで、細かな水しぶきとマイナスイオンを浴び、パワーがもらえると義母は大喜びだった。
そのお陰か帰り道はすたすたと歩き、途中で立ち止まってはポーズをとって孫息子に写真を撮らせていた。やぁやぁめでたいめでたい。
米寿の義母「大きう撮ってや」
3日後、今度はかごしまバリアフリー相談センターの喜井(キイ)さんと一緒に、同じく大川の滝に行くことになった。
その日は車椅子利用者の視点で、駐車場近くに新しくできた「多目的トイレ」の視察が主な目的だった。
合流してすぐ喜井さんが言うには
「屋久島はすごいねぇ、ホテルのスタッフの振る舞いに、びっくりしました」
「え、どんなところがですか? 」
「朝ごはんの時、若い女性スタッフがわたしの分を取ってくれる時のさりげなさ、自然な感じが…本当に感激しました」
いわさきホテルの朝食バイキングのことだった。
「昨日の喫茶店(サンパウロ)でも、さっと来てドアを開けてくれたり、何かみんなが自然体でやさしいよね」と介助の方とうなずきあっていた。
そんな話しをしていたら1台のレンタカーが、多目的トイレ入り口の庇の下に雨をよけるかたちで停まった。降りてきた年配のご夫婦の奥様の方が杖を使用されていて、車から降りてすぐにトイレに入って行った。
さっそく外で待っていた旦那さんに声をかける喜井さん。
「ここは車が入り口のすぐ近くに停められるので便利ですね 」
「そうですね屋根もあって…ここ以外でも屋久島のトイレは親切ですよ」
「へえ、そうですか? 」
「道路の要所々々にこういうトイレがあって、ここから西部林道を通って永田のいなか浜にもあります」
「どこにトイレがあるか、詳しいですね」
「ええトイレのことは一番大事ですからね。屋久島の地図にはトイレの場所がちゃんと書いてあって便利です」
「どんな地図ですか? 」
「トイレはほとんどの地図に載っていますよ。車で行ける場所にトイレがあってその情報があるというのは本当に助かります」
トイレマップはかごしまバリアフリー相談センターの冊子「鹿児島しま旅」にも載っており今回はその視察であることを伝えた。
出て来られた奥様にも感想を尋ねる。
「このトイレの使い心地はいかがでしたか? 」
「広くて良かったです」
「水洗レバーが後ろにありますが、不便ではなかったですか? 」
「ええ、手すりもあったので大丈夫でした」
屋久島は素晴らしいと褒めていただいてとても嬉しかった反面、気になることがひとつあった。
多目的トイレの中にある「緊急用ブザー」だ。何か緊急事態が発生してブザーを押すと、外壁についている回転灯がつき音が鳴る仕組みになっている。
その回転灯の下にはこのように書いてあった。
『「ブザーが鳴っている」「回転灯が点灯している」場合は、多目的トイレ内に具合の悪い人がいる可能性がありますので、救助・介護をお願いします。
復帰する時は、下のカバーを開けてボタンを押してください。
なお、復帰ボタンを押しても回転灯が作動している時は、お手数ですが下記の連絡先までご連絡ください。 施設管理者 連絡先 屋久島町 商工観光課 電話(代)0997-43-5900』
ん?
3日前に義母がこのトイレを利用した時はわたしが外で待っていて、鍵はかけずに用を足してもらったのだが、もし別の日にたまたまここを通りがかった時、ブザーと回転灯で危機を知らされても、中から鍵がかかっていて、携帯電話も圏外のこの場所でどのように対処すればいいのだろう。
バリアフリーやユニバーサルデザインという概念は「障がいのある人のため」だけではなく「皆いつかは歳をとるのだから他人事ではない」というところまで視点を広げてくれたが、そのような事態に遭遇した場合は介助者や同行者、そしてたまたまそこに居合わせた人にとってはまさに他人事ではなくなる。
そんなことを思った大川の滝「多目的トイレツアー」だった。 松本淳子