水底にとぐろを巻くウンコ
私は、元浦のポイントが好きである。岩場・サンゴ・砂地と環境に変化があり、浅い割には魚種が豊富であるからだ。しかし、何よりも底生動物の多さはダントツである。
元浦でガイドをするときの楽しみは、水底にとぐろを巻く「ウンコ」を見せるときだ。
それまでいろいろ生き物を紹介してきて、いよいよ砂地へ繰り出す。なんにもいないかのように見える水底に何やら山積みにされたものが見えてくる。そこでボードに「うんこ」と大きく書いて物体に近づき、おもむろにボードを見せた時、ぶっと噴出すお客さんの顔がマスク越しに見える時の快感。これがやめられない。
さて、この水底にとぐろを巻くウンコ。
正体は「ワダツミギボシムシ」。このウンコを手のひらで水流を作り慎重に剥ぎ取っていくと一瞬黄土色した管が見える。これがワダツミギボシムシだ。しかし、次の瞬間には砂に潜りこみ見えなくなってしまう。私もまだ、このほんの一瞬しか見たことがない。巨大なミミズのような生き物で頭の部分が橋の欄干の上にのっかっている擬宝珠(ぎぼうし)のような形をしていることから「ギボシムシ」と名がついた。
このワダツミギボシムシは、体長が1m近くにもなり砂の中に潜んでいる。頭部で砂を飲み込み、砂の中の有機物を吸収してきれいになった砂を肛門から吐き出しているのである。つまり、土の中のミミズとまったく同じ位置にいるのだ。
以前、永田の田舎浜の環境調査をした時、海底の砂からはまったく生き物が確認されず、「生物なし」と報告したら、「そんなはずはない。もっとちゃんと調べなさい。」と怒られた。しかし、あまりにきれい過ぎて生物が生きていけないのである。また、逆にヘドロの海となってしまっても生物は生きてはいけない。元浦の海は、湾になっていて様々な要因によりいろいろなごみが吹き寄せられ、堆積し、このワダツミギボシムシ等の底生動物の餌となっているのである。元浦に底生動物が多いのは、こういう訳である。ワダツミギボシムシがせっせとごみを分解してきれいな砂にし、元浦の海底を掃除しているのである。流れ込むごみの量が適度な量であれば、ワダツミギボシムシがいるうちは元浦の浄化機能は安泰である。海底にとぐろを巻くウンコを見るにつけ安心するのである。(松本)
YNAC通信10号掲載
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