屋久島有象無象
屋久島・有象無象
不可思議の島に纏わる
有象無象の物どもを求め、
われらYNACは、今日も行く。
『超級奥特曼』がやってきた!

 20061025日、西部ツアーでいつものように半山の森を歩いていたら、研究用の梯子がかかっているあたりで、なにやらビニールゴミのようなものが落ちているのを発見した。

 また何かの研究ゴミかと思い回収に近づいたら、よく見るとウルトラ兄弟の絵が描いてあるではないか?!そこには漢字で『超級奥特曼』と書いてあった。なんと中国からの風船である!!! 正しく発音はできないが、ウルトラマンのことをいっているようなのは雰囲気から感じられる。

 ビニール製の風船で、直径は約40cmのハンバーガー型で、口は折り返したあと、長さ約75cmの紫色をした細い紙ひもで縛られていた。残念ながらすでに破れていたが、よくみると動物の歯形のような破れあともあることから、ひょっとすると森に落ちたあとに、珍しがってサルが噛みついて破裂させたのかもしれない。大きな破裂音でもしたらさぞサルがおったまげたことであろう。
 海岸からは離れた森の中にあり、周囲に他の海からの漂着ゴミは飛んできていないことから、海を漂ってきたものではないことは明らかだ。遥か中国から空を飛んできたのであろう。中国人の子供が、紫のひもを持って、ウルトラ兄弟の風船を浮かべて歩いていたのであろうか。うっかりと手を離し飛んでいった時は、さぞ悔しかったであろう。かつてディズニーランドで息子が持っていたミッキーマウスの風船が飛んで行ってしまって大泣きしたことを思い出す。

 インターネットで調べてみたら、他にも中国からウルトラマンの風船が飛んで来ていることがわかった。2006年の129日には、愛媛の松山シーサイドカントリークラブに風船が飛来している。これには写真が載っており、ウルトラ兄弟は同じだったが柄は全く違う別の風船であった。322日には香川の海岸でもウルトラマンの風船が見つかっている。なぜ九州山地を飛び越えてきたのか、はたまた南回りで屋久島をかすめて四国に現れたかは不明だが、春の西風に乗ってやってきたのであろう。
 海からの南風が卓越する夏場にはそのような報告は途絶え、再び秋になると108日に沖縄の与那国島の海岸で目撃されている。屋久島で見たのが1025日だから、ひょっとすると同時期に配られた風船なのかもしれない。特筆すべきは1226日に京都府京津市で発見されたアドバルーンで、全長10mにもなる巨大なアドバルーンの垂れ幕には、中国語で「環境保全模範都市を創立し、社会の繁栄と発展を促進させよう。」と政治スローガンが書かれていた。こちらはマスコミにも取り上げられたのでご存じの方も多いかと思う。

 これだけ大きなものが他国から飛んでくると物騒な気もするが、実際に第2次大戦中には、B29の空爆で国土をさんざん痛めつけられていた日本が、米国本土に一矢報いんとして風船爆弾を飛ばしたのは、有名な話だ。風船爆弾といっても、ただ風船に爆弾をくくりつけて飛ばすといった単純なものではなく、当時最高の頭脳と技術を結集して、バラストの自動調節で高度を保ちながら米国を目指し、本土に達したところで爆弾を投下するというなかなかのハイテク兵器だったようである。江戸東京博物館のホームページによると「15キロ爆弾と5キロの焼夷弾2個を吊るし、約9300個が昭和1911月から翌年3月までに放流された。そのうち900個から1000個が米国本土に到着し、各地で山火事を起こし、オレゴン州では爆弾により牧師の妻子6人が死亡した。米国側は風船爆弾の報道を管制した。」ということで一定の成果を上げたかのようであるが、もちろん戦況に変化をもたらすべくもなく、偏西風の季節の終わりともに作戦は終了した。その後作戦が再開されなかったのはなぜかわからないが、気球を和紙で作るのにコンニャク糊を使用したということで、当時全国の商店からコンニャクが消えたともいわれているので、ひょっとするとコンニャク不足か、はたまたコンニャクが食えない国民の反感を買ったため中止に追い込まれたのかもしれない。

 この偏西風は高度1万mで最大時速360kmにもなるという。上海と屋久島でおよそ840km離れているので、本当にジェット気流に乗ってしまえば、風船は数時間でたどり着くことになる。
 
 ところで中国から飛んでくるものに黄砂がある。こちらの方は含まれる炭酸カルシュウムによって酸性雨の原因となる物質を中和してくれたり、また最近の研究では日本の伝統的な食べ物である醤油や味噌を発酵する好塩菌ももとは中国の方から黄砂にのってやってきたということもわかってきているようである。東京周辺の畑や道端の土には、塩分がほとんどないにも関わらず、好塩菌が検出され、これが日本にはいない菌で、海水よりももっと塩分濃度の高い中国内陸部の塩湖周辺などに棲息する菌であることがわかってきたのである。


 屋久島でも、ミネラルの乏しい花崗岩質土壌の上に、黄砂がミネラルを運んでくれることによって豊かな森が維持されているという話もある。空を飛んでくるものは、テポドンやら黒い雨やらといった物騒なものではなく、のどかなウルトラマンの風船や役に立つものであって欲しいと切に祈らずにはいられない。              (市川)

Ynac通信23号掲載