ムラサキミミカキグサ
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私は耳掻きが好きである。家でくつろいでいるとついつい耳掻き棒に手が行ってしまう。自分の耳だけでは物足りなく、逃げる子供に頼み込んで耳を掻かせてもらっている。颯太の耳にこびりついた巨大なミミクソを、そっと掘り出す瞬間に、思わず生唾を飲み込むのは私だけだろうか。
ところで湿地帯にはえるミミカキグサという植物がある。このうち屋久島で見られるムラサキミミカキグサは、学名をUtricularia
yakusimensis(日本の野生植物 平凡社)といい、まさに屋久島のミミカキグサである。
ムラサキミミカキグサは、夏になると細く立ち上がる花茎の上に紫色をした可憐な花を咲かせる。花が落ちると、花茎の先に顎が残り、ちょうど耳掻き棒そっくりとなるので、ミミカキグサと呼ばれているようだ。北海道にもはえていたので、なんとなく親しみを感じる草花だ。
ミミカキグサの仲間は、花でも咲いていなければ、余程のマニアでもなければ目にすることがない小さな植物であるが、実はモウセンゴケやウツボカズラと同じ食虫植物である。しかしこの植物、一見するとモウセンゴケのようなネバネバと虫を絡めとる葉もなければ、ウツボカズラのような仰々しいミズサシ状の落し穴も持っていない。もちろん耳掻きで虫をすくい取るなどの芸当は持ち合わせていない。
その秘密は地下にある。もともと水溜りの泥やミズゴケの中にはえているので、茎は水の中に拡がっているような状態となっている。この茎に捕虫嚢と呼ばれる透明な小さな袋がついている。袋の口のところにはえている毛に、ミジンコのような小さな動物が触れると、袋の弁が開いてスポイドで吸い上げるように、たちまち袋の中に捕まえてしまうのだ。可愛いからといって甘く見ていると痛い目をみるいい例だ。
[市川] |
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Ynac通信2号掲載
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