有象無象


カヌーざる・ジョージ、その後


ジョージ君のお腹に、こざるが抱きついているのがわかりますか?

 安房川左岸の照葉樹林にカヌーが大好きなこざるが棲んでいることを、YNAC通信3号のこのコーナーで紹介しました。1995年からの付き合いですから、もうこざるのジョージ君との付き合いも5年目になろうとしています。
 カヌーに触っては、逃げるということを繰り返してきたジョージ君ですが、1997年10月30日、ついにカヌーに乗りました。 いつものように岸辺でジョージ君を見ていたところ、へさきを砂に乗り上げていたお客様のカヌーにジョージ君が飛び乗ったのです。しばらくお客様とにらめっこしてジョージ君は逃げていきました。
 その後、ジョージ君はたびたびカヌーに乗るようになりました。時々お客様のカヌーの後ろに飛び乗り、カヌーをゆすったりしてはらはらさせる場面もありましたが、特に悪さをすることもなく、カヌーに乗るのを楽しんでいたようです。
 岸から離れて、川をグルリと回ってみようと、何度も試みたのですが、さすがに岸から1mくらい離れると、ポンとジャンプして岸に戻ってしまいます。優雅にジョージ君とパドリングを楽しむところまでは、なかなか行きませんが、日本広しと言えども、カヌーにのる野生のサルは、ジョージ君をおいて他にはいないでしょう。
 そんなジョージ君ですが、1998年の春から第二次性徴が始まり、おっぱいがポツッと出てきてしまいました。実はジョージ君は、女の子だったのです。ジョージ君、女の子とわかったとたんに、いかつい彼氏ができてしまいました。その春に群れに加わったばかりの彼氏は、カヌーを見たら逃げ出してしまう臆病者です。ジョージ君もなんとなくカヌーとはお見限りになってきました。
 そうこうしているうちに1999年の春、屋久島のサルの群れに異変が起きました。冬の間に西部のサルが大量死したようなのです。詳しくはわかりませんが、研究者によると西部では絶滅した群れもいくつかあったそうです。
 安房川でも、なぜか春からジョージ君の群れを見かけなくなりました。松本などは、群れごと絶滅したのではないかなどと不吉なことをささやくようになってきました。
 次第に不安が募ってきた5月31日、ついにジョージ君と再会することができました。それも子供を抱いて。そうこの春ジョージ君は、母になったのです。初めての子供の出産でナーバスになって、姿を隠していたのかもしれません。この日もカヌーを見たら、一目散に森に消えていきました。しかしジョージ君を見間違うはずはありません。子供を連れてジョージ君が帰ってきたのです。

 母になったジョージ君とカヌーザル二世を乗せて安房川を漕ぐ日が来るのを楽しみにしているところです。(市川)

Ynac通信10号(1999/9)掲載